研究内容

人間の農耕の歴史は、野生植物とは異なる性質をもつ栽培植物を生み出してきました。今後私たちが更なる生産性向上や高付加価値化の為に栽培植物育種を進めていくためには、栽培植物の形質がどのように制御されているのかを遺伝子レベルで理解すること、また遺伝の仕組みそのものへの深い理解が必要です。

私たちの研究室では、耐病性等の農業経済上重要な形質を決定する遺伝子の同定や、植物の遺伝学の基礎的研究を行っています。

アブラナ科植物、ユリなどの花卉、マメ科植物、イネを主な研究材料としています。


アブラナの耐病性遺伝子同定と利用の研究(岡崎)

栽培植物生産において、環境負荷を下げつつ安定した生産を可能にする為には、病害に対して抵抗性をもつ品種の育成が有効です。私たちは、キャベツ、ハクサイなどのアブラナ科作物を侵す萎黄病と根こぶ病について、その抵抗性遺伝子を同定し、品種育種に利用する事を目指し研究を行っています。

写真. 萎黄病菌を接種した植物

抵抗性遺伝子を持たない系統(右半分)と、萎黄病抵抗性遺伝子を持つ系統(左半分)。

萎黄病はアブラナ科作物の深刻な病害の一つであり、萎黄病菌(Fusarium oxysporum f. sp. conglutinans)の感染により引き起こされます。罹病すると導管部を褐変させ,水分や養分の転流を阻害し,生育不良,葉の黄変,萎凋,枯死を引き起こします。土壌伝染性病害で、耐久体である厚膜胞子を形成する為、寄生植物体がなくとも土壌中で長期生存が可能なので、防除が困難です。また、気温25~30℃の比較的高温条件で多発するため,近年の地球温暖化により病害の蔓延化が危惧されています。

当研究室ではこれまでにハクサイとキャベツから、萎黄病抵抗性遺伝子候補FocBr1FocBo1を同定しました(論文), (論文)


アブラナ科野菜の低温開花誘導機構の研究(岡崎)

植物が一定期間低温にさらされる事により、花芽を分化させることを春化 (Vernalization)と言います。植物にとって春化は次世代を残すために大切な性質ですが、低温期に栽培する葉もの野菜において春化を避けることは、品質管理の点で極めて重要です。私たちは、アブラナ科野菜の春化にとっての低温要求性が、どのような分子機構で制御されているのかを明らかにするための研究を行っています。

写真. キャベツ畑


マメ科の種子サイズの研究(深井)

マメ科の子実はイネ科の穀物と共に、人類の食生活に不可欠な存在です。マメは種子サイズの多様性が大きく、用途に応じて様々なサイズのマメが生産されています。このように種子サイズはマメにとって重要な形質です。マメの種子サイズがどのような遺伝子により制御されているのかを明らかにし、マメの種子サイズ育種を可能とする事を目指し、研究を行っています。

写真. マメ科植物の様々な大きさの種子


トランスポゾンの研究(深井)

トランスポゾンはゲノムの中を移動するDNA配列です。植物ゲノムには多くのトランスポゾンが含まれています。

図. トランスポゾンの転移とその影響

上の図では、当初1コピーだったトランスポゾン(上段)が、動くこと(転移と言います)により徐々にコピー数を増やす様子(中段、下段)を示しています。遺伝子にトランスポゾンが挿入する(下段)と、遺伝子本来の機能が破壊されたり、変化する事があります。この事はトランスポゾンの活性が、植物の生育に悪影響を与えうることと同時に、植物に新しい形質を与える可能性があることを意味します。実際、過去に生じたトランスポゾンの転移が、栽培植物にとって有用な変異を生じさせた例が複数見つかっています。

通常、ゲノムの中のトランスポゾンは動き回らないように抑制されています。抑制には、塩基配列とは別の遺伝情報である、エピジェネティック制御が関与している事が知られています。しかし私たちは、マメ科のモデル植物であるミヤコグサにおいて、培養細胞から再分化させた植物体でトランスポゾンが活性化し動き回るようになる現象を見出しました(論文)

写真. ミヤコグサ

動くようになったトランスポゾンを利用して、ミヤコグサのたくさんの遺伝子機能を破壊し、各々の遺伝子が、植物の生育にどのような意味を持っているのかを調べる実験系を確立しました(論文)。同様の方法で、いろいろな植物でトランスポゾンを活性化させ、植物育種に利用できるのではないかと考え、研究を行っています。


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