新潟大学農学部 生物資源科学プログラム

岡本 研究室

Okamoto Lab.
 

 道管を介して根から地上部へ長距離移行するペプチドの探索

 
 植物は根、茎、葉、果実などの異なる性質を持つ複数の器官により構成されています。そのため個体全体が効率的に生命活動や生産活動を営むためには、これらの器官が別々に機能するだけではなく器官同士で相互作用し、お互いの成長や機能を調節し合う必要があります。そのためには器官間の情報伝達が必要です。そこで当研究室では特に根から地上部への情報伝達に着目し、道管を介して根から地上部へ長距離移行するペプチドを同定することで、新たな全身的な情報伝達の探索とその分子機構の解明に取り組んでいます。
 

道管液の網羅的な解析の概要

 
 


 

 ダイズ道管滲出液からのペプチドの同定

 
 以前に、宿主植物における根粒形成の全身制御に関わる長距離移行性ペプチドを見出しました (Okamoto et al., 2009, Plant Cell Physiol.; Okamoto et al., 2013, Nat. Commun.)。しかし、ペプチドを介した根から地上部への長距離情報伝達は「根粒形成の全身制御」という一つの現象に限らず、植物で普遍的に行われる可能性があります。そこでダイズから道管滲出液を採取・精製し、ペプチドの網羅的な同定を試みました。その結果、7つの内生のペプチドを同定することに成功しました (Okamoto et al., 2015, Plant J.)。その中には、CLEやCEPに加えて硫酸化修飾されたペプチドも多数含まれていました。またダイズの根において、それらのペプチドをコードする遺伝子のうちのいくつかのプロモーター活性を調べたところ、いずれも根の中心柱でその活性が検出されました。根の内皮にはカスパリー線が形成されますが、その内側で発現することがペプチドの長距離移行に重要なのかもしれません。

 
 
 

ダイズ道管滲出液から同定されたペプチド

 
 

XAP遺伝子のPromoter-GUS解析

 


 

トマト道管滲出液の網羅的な解析

 
 ダイズの道管滲出液からは7個の内生のペプチドを同定しましたが、その結果はダイズに特異的なものか、それとも植物で普遍的なものかはわかりません。そこで次にトマトの道管滲出液について調べることにしました。その結果、トマトの道管滲出液からも7個の内生のペプチドを同定することに成功しました (Okamoto et al., 2022, Life (Basel))。それらの中にはCLEやCEPなども含まれ、興味深いことに、同定した7個のペプチドのうち、5個がダイズから同定したペプチドのホモログであることがわかりました。トマトはキク亜綱、ダイズはマメ亜綱に分類され、両者は双子葉植物の中では進化的に比較的離れています。このため、道管滲出液に含まれるペプチドは双子葉植物種間で広く保存されている可能性があります。
 
 

 
 
  
  

コア真正双子葉類

 
 
 

 


 

 

道管滲出液の採取方法 

 

 道管滲出液の採取方法は単純なためか、それをステップごとに記述した文献はあまりありません。そこで、これまでに用いてきた大型の作物および小型のモデル植物からの道管滲出液の採取方法をBio-protocolで公開しました。道管滲出液に興味のある方はぜひ参考にしてください。

Okamoto S. and Kawasaki A. (2022) Collection of Xylem Exudates from the Model Plant Arabidopsis and the Crop Plant Soybean, Bio-protocol.