ご挨拶

センター長ご挨拶

新潟大学農学部教授 西海理之

現在、我が国においては、「食」を巡る諸問題はますます社会的に大きな課題として広がりを見せております。10年前はむしろ地味な分野でありました。それが、「食の安全性」が大きな課題となり、また繰り返す食品の偽装問題は企業のモラルの失墜をさらけ出し、近年は、将来の世代を育み、社会の安定と発展を目指す上で「食育」を巡る問題が大きな課題となっています。また、昨年以来、突如国際穀物価格の上昇に伴い我が国の食料問題は深刻さを増し、飽食に慣れきった社会は大きなとまどいを見せています。コメ消費の拡大が要請され、食料自給率の上昇という国策に関わる課題までが視野に入ってくるようになりました。我が国が今後、先進国として引き続き安全で豊かな社会を継続を遂げるための試金石となっているといえるでしょう。

 こうした中、特に自他共に認める代表的な「食づくり地域」である新潟県にあっては、この我が国が抱える問題を共有すると同時に、その食材の生産を支え、高品質の食品を供給するという重要な使命を担っております。 新潟県を最も特徴づけるこの食品関連産業界に対して、新潟大学として組織的に対応すべく、私ども地域連携フードサイエンスセンターは、平成14年に全国でも珍しい学部横断型のバーチャル組織として自主的に結成されました。その後、現在は農学系、工学系、歯学系、医学系、教育学系、そしてさらには県内大学の関係教員の方々の参加を得て、60名にならんとする組織として活動を進めております。

 この間、国立大学法人化を経て、ますます社会との交流の重要さは増しており、平成17年には学内的にもコア・ステーションとして認定を受け、正式な学内組織として活動が軌道に乗っております。おかげさまでようやく当初からの努力が実り始め、産学連携による農水省、経産省、JSTなど大型の競争的外部資金は平成20年度は総額3億円を超えるようになりました。また、新潟発のユニークな取り組みとして、災害食・非常食の展開も全国的な関心を集めております。また、こうしたバーチャル組織はまだ全国的にも少ないようで、他の大学や自治体からも問い合わせを受けるようになりました。

 本学からは卒業生の多くが県内の食品関連業界へ進み、地域の発展に大きく貢献しております。私ども地域連携フードサイエンスセンターも、食品の絶えざる品質向上、食品製造技術の向上、新機能性食材の開発、高齢者用・非常用食品の開発、等々への具体的な貢献を通して、産官学連携のもとに新潟県の「食づくり産業」発展のために協力していく所存であります。このたびようやくホームページが立ち上がり、皆様への情報発信と交流がよりスムーズになるものと確信しております。今後とも、ますます、社会への貢献を目指して行きたいと思いますので、皆様からのご意見、ご要望をお待ちしております。 平成29年4月

 

設立にあたって

初代センター長/代表世話人 鈴木敦士(農学博士)

新潟県の食料品製造業は、米をはじめとする豊富な農林水産物の産地として、恵まれた立地条件のもとに県下全域に分布している。中でも、米菓、清酒、水産練製品、味噌等は、その品質の良さからも全国的に有名である。

 「新潟県の商工業(平成14年版、新潟県産業労働部発行)」によれば、平成13年度の食料品及び飲料・タバコ・飼料製造業が新潟県工業全体に占める割合は、事業所数で10.4%、従業員数では17.1%、製品出荷額等で15.2%を占めている。うち、飲料・タバコ・飼料を除く食料品の製造品出荷額等の構成比は13.4%で、電気機械(20.9%)に次ぐ第2位の産業となっている。
 一方、これら食品関連産業に従事している新潟大学卒業生は多く、本学は県内食品関連産業界への有力な人材供給源としての役割を果たしているといえる。
ところが、食品関連企業の抱える諸問題の解決に組織として対応する仕組みが、いままで大学に存在しなかったのは驚くべきことである。もちろん、教官個々人は、企業の抱える問題の相談役を努めたり、共同研究を行ってきたし、それは現在でも続いている。しかしながら、食品関連分野における最近の目覚しい「技術革新」に対応し、「社会貢献」の成果を挙げるためには、個々人の対応ではなく組織としての対応が不可欠である。また、食品総合研究センター、醸造試験場、水産研究センター等の新潟県の公的研究機関との組織的連携も必須である。

 そこで食品関連分野の技術者間交流、企業ニーズの把握、大学からのシーズ提供などの活動を通して、「技術革新」と「社会貢献」を目指す、新潟大学の学部横断型の新しい組織、「新潟大学地域連携フードサイエンス・センター」を設立するに至った。メンバーは、工学系、農学系、歯学系、教育学系からなり、食品の品質向上、新機能性食材の開発、高齢化社会の到来にともなう老人用食品の開発、等々を目指して、産官学連携のもとに新潟県食品産業発展の為に活動していきたい。