グリーティング
⽣まれは⼤阪,育ちは⻑崎,学⽣時代を京都で過ごし,⽯川県⽴⼤学に10年近く勤務し,新潟⼤学に来て10年余りになります。2004年の新潟県中越地震の調査団に加わったのがきっかけで,ずっと⼭古志に関わっています。
山古志には,牛どうしの闘いとそれを引き分ける男衆の攻防がすばらしい伝統行事「牛の角突き」,「泳ぐ宝石」と呼ばれる錦鯉,魚沼産コシヒカリに匹敵するおいしい米など,農民が育んできた文化が脈々と受け継がれてきました。このような農村伝承文化を通じた人のつながり,農村のもつ包摂(Inclusion)と安寧(Well-being)に着目して研究を進めています。
山古志角突き女子部のソバ打ち体験
研究分野・テーマ
1.山古志の心にふれる
2020年秋に闘牛オーナーとなったのをきっかけに,新潟大学の研修制度で山古志の借家に1年間,滞在しました。滞在中は50頭ほどの闘牛が共同で飼育されている牛舎で給餌の一端に触れたり,闘牛大会に自分の闘牛「潮(うしお)」が出場してハラハラするという体験をしたりしました。冬は雪掘りの辛さを痛感し,豪雪中山間地の現実を肌で感じることができました。雪掘りの日々が落ち着いた矢先,脊髄損傷という大怪我をしてしまい入院していたところ,山古志闘牛会の皆さんが写真を送ってきてくれました(写真1)。コロナ禍で面会が制限されているなか,とてもありがたく感じました。退院後に集落に戻ってからも,さりげない気遣いや温かい声掛けに救われてきました。歩くうえで杖をつくなどの障害を抱えていますが,これまでとは違った景色をみることができています(写真2)。
2.「泳ぐ宝⽯」を世界に広めた農⺠の知恵と技
⼭ひだの奥まで棚田ならぬ棚池が連なる⼭古志。早朝⽔辺に佇むと草木に朝露が煌めき,吸い込まれそうな⽔鏡と⾒晴るかす越後三⼭に異空間へと誘われます。
棚池で錦鯉(写真3)が養殖されるようになったのはそれほど古いことではありません。1970年に始まった⽶の生産調整政策で⽔田の多くが養鯉池に転じ,今では「NIIGATA」ブランドとして世界各地に輸出されるまでになっています。それを可能にしたのは,この地域に古くから伝わる溜め池造成の技です。もともと⾬が少なく,⽔田に引く⽔を少しも無駄にしないため,漏⽔を抑える造成技術が発達していました。その技を応用して⾕⽔や湧⽔がない⼭頂部にも養鯉池をつくり,冬の間に溜めた雪で必要な⽔を賄うという画期的な技術が開発されたのです。清浄な雪解け⽔は健康で美しい錦鯉を育みます。成功に導く上では稲作の知恵も欠かせませんでした。「鯉づくりは稲づくり」。鶏糞などを池に⼊れて地味を肥えさせ,鯉をいかに⼤きく⾊鮮やかに仕上げるか,鯉師の腕の⾒せ所です。
⾃然を巧みに利用し⽇々の糧を得るとともに,地域の伝統と誇りを守り伝える。その経験に学びながら,⽇本の原⾵景といわれる中⼭間地の暮らし⽅を描いていきたいと思います。
研究業績・略歴
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