グリーティング
「過疎化」「高齢化」「限界集落」、農村の危機がこうした言葉で表されます。教科書や報道を通してこれらの言葉に日常的に接していると、農村とはそうしたものだと思い込んでしまうことがあります。しかし、実際の農村はもっと奥行きの広いものです。農村で出逢う人びとは、危機感を抱きながらも、先を見据えてしたたかに行動し、はつらつと暮らしているようにみえます。その場所に誇りをもち、家族やムラのことを気にかけ、時には付き合いのわずらわしさに折り合いをつけながらも、自分たちのことは自分たちでなんとかしたいと思っているのです。一方で農村には長い年月にわたって築かれ引き継がれてきた水や土地などの配分ルールがあります。例えば、水路に堰をつくり水を引くことはムラへの断りなしに勝手にしてはいけません。こうした心持ちや配分ルールを地域をよくしていくための計画にうまく反映させていきたいと考えています。
研究分野・テーマ
これまで、滋賀県、石川県、新潟県の農村を対象として農村計画学分野の研究を行ってきました。
1.農村の良さとムラのルールに関する研究
琵琶湖の北東部に位置する湖北地域では、水田に引く水がムラの中を流れ、暮らしに潤いを与えています(写真1)。水路は住民によって代々守り継がれてきました(写真2)。「自分たちのムラは自分たちで守る」。その気概は、協定という形でムラの取り決めをつくり景観の保全を行う全国初の取り組みにつながりました(写真3)。錦鯉と水路をシンボルとして約30年前から続いています。ムラを歩いて感じる「良さ」は、単に外観が優れているからではなく、そこに人びとの心が感じられるからかもしれません。全国的にみると、農業に携わらない住民の増加による水路の守り手の減少が問題になっていますが、この地域の取り組みはそうした課題にヒントを与えてくれます。
2.中越地震で被災した養鯉池の復旧に関する研究
江戸時代末期、錦鯉が発祥した地、山古志郷(写真4)。山の斜面に連なる養鯉池に錦鯉が養殖され、基幹産業として山あいの暮らしを支えています。2004年の中越地震では、多くの養鯉池が被災しました。新潟県が全国で初めて創設した復旧支援事業が果たした役割や、復旧されなかった養鯉池の立地特性を分析しました。こうした経験の蓄積は、他の農村における災害復旧に示唆を与えると考えています。
復旧・復興を考える上では歴史的視点から捉えることも大切です。養鯉池の水源確保に伴う立地変遷を明らかにしました。 山古志郷では錦鯉や牛の角突き(写真5)といった伝統を軸にした地域づくりが盛んで、都市の中学生が農家に宿泊して農村体験を行う民泊などのグリーンツーリズムも行われています。今後はそうした面からも関わっていきたいと思います(図1)。
研究業績・略歴
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